Kassyの試写会映画生活

主に試写会メインで新作の映画についての感想を残していきます。

「人間失格 太宰治と3人の女たち」蜷川実花流太宰恋愛エンタメ

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監督:蜷川実花

主演:小栗旬

 

走れメロス」「斜陽」などで知られる作家・太宰治の「人間失格」誕生に迫るドラマ。写真家で『ヘルタースケルター』などの監督を務めた蜷川実花がメガホンを取り、酒と女に溺れながらも圧倒的な魅力を持つ男の生涯と、太宰をめぐる正妻と2人の愛人との恋模様を描く。太宰には小栗旬がふんし、役作りのため大幅な減量を行った。太宰の正妻を宮沢りえ、愛人を沢尻エリカ二階堂ふみが演じる。

 

太宰治恋愛模様を中心に描いており、自伝的小説である人間失格を冠しているものの、人間失格ではなく人間失格を書くまでの太宰治のお話である。

蜷川実花監督らしい色彩とアート感覚に溢れ、1940年代の景色を艶やかに描き出している。
特に太田静子のパートが一番イキイキと演出しているような気がする。小説家でいう筆が走るような、想いがかなり込められているのではないかというほど、沢尻エリカは悲壮感なく美しく撮られている。
一方で、小栗旬もまた美しく撮られており、どうしようもない男ではあるが魅力のある男を色気たっぷりに、またひどく哀しい男でもある太宰治を滑稽なほど色んな表情で演じている。喀血のシーンは見ているこちらが苦しくなってくる。

ただ全体的にトゥーマッチな為、メリハリがなく見ているとだんだん疲れてくる作品だ。特に音楽が全くあっていなくて、うるさく感じるほど。エンターテインメントにはなっているが、文学の香りが画面からあまり滲み出てこないのが残念だ。
あまり語りすぎず滲み出てくるような侘び寂びが欲しい。

「記憶にございません!」 万人ウケする政治コメディ

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監督:三谷幸喜

主演:中井貴一

 

ザ・マジックアワー』などの三谷幸喜がメガホンを取った政界コメディー。国民から全く支持されていない総理大臣が記憶喪失になったことから起こる騒動を描く。主人公の総理大臣を、三谷監督作『ステキな金縛り』などに出演してきた中井貴一。『海を駆ける』などのディーン・フジオカ、『マチネの終わりに』などの石田ゆり子、『体操しようよ』などの草刈正雄、『64-ロクヨン-』シリーズなどの佐藤浩市らが出演する。

 

目を覚ましたら記憶を失い、元の性格とは真逆の性格になっており、実は自分が支持率最低の首相でというドタバタ政治コメディ。

前作ギャラクシー街道ははっきり言ってかなりスベっていていたが、今作記憶にございません!は、随所にクスクスと笑える小ネタが満載だった。その笑いはとても普遍的で万人に受け入れられやすいと思う。

豪華キャストでそれぞれの俳優のキャラクターでそれぞれ楽しませて笑わせてもらったのだが、オチが弱めでふんわりと終わってしまうのがやや勿体無い。

だが、投票率が50%を切るようなご時世で、ファンタジーではあるが万人にウケそうな政治エンターテインメントが作られたことに意義があると思う映画だった。


田中圭の謎の二の腕アピールと
ディーンさんのツンデレぶりと
小池栄子姉さんのコメディエンヌ&有能ぶりが印象的だった。

「お料理帖~息子に遺す記憶のレシピ~」 母の想いが込められたレシピ達

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監督:キム・ソンホ

主演:イ・ジュシル

 

認知症の母がのこした料理帖から、母の家族への愛情が浮かび上がるヒューマンドラマ。『犬どろぼう完全計画』などのキム・ソンホ監督が自身の母との体験を生かし、不器用な親子関係や老いの問題、家庭料理の温かさを描いた。長いキャリアを持つイ・ジュシルをはじめ、『パラレルライフ』などのイ・ジョンヒョクらが出演。

 

2019年9月13日公開。

 

惣菜屋を営む母と、うだつの上がらない息子。ある日母が認知症だとわかり、次第に関係が変化していく中で、お料理ノートやレシピに込められた母の想いに気づいていく。

監督が体験した実話を元に映画化したそうで、認知症に対する反応などはしっくりくる。
韓国の手料理の数々は、聞いたことない食材やメニューが沢山出てきて美味しそうで、母の愛情や想いが沢山詰まってる事がわかる。

ただ、あまり感情が湧かない韓国ヒューマンドラマだった。少し唐突というか、主人公いくらなんでも忘れすぎでは?

一部、人がいないはずなのにカメラが動いて人に影が出来てしまってるところが気になった。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」レオ様とブラピ様の共演が最大の見所。

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監督:クエンティン・タランティーノ

主演:レオナルド・ディカプリオ

 

ジャンゴ 繋がれざる者』のレオナルド・ディカプリオ、『イングロリアス・バスターズ』のブラッド・ピットクエンティン・タランティーノ監督が再び組んだ話題作。1969年のロサンゼルスを舞台に、ハリウッド黄金時代をタランティーノ監督の視点で描く。マーゴット・ロビーアル・パチーノダコタ・ファニングらが共演した。

 

60年代のハリウッドに思い入れがない私には、レオ様とブラピ様の共演以外大して見所のない作品だったというのが正直な感想。
2人がめちゃ仲良くてバディ感強いのは堪らなく良かったけど、全体的に冗長で長いし途中めちゃくちゃ眠かった。ノスタルジーはあるけど、それが楽しいかと言うと微妙。監督のこだわりは存分に感じたけど。

シャロン・テート事件は事前に調べて!!と色んな人が言うから、ラストはある意味どうなるのか楽しみに待ってたのに、えっそっち…っていうのも…
まぁ痛快ではあったけど…

悲惨な事件のifのおとぎ話の世界ってことで、レオとブラピの共演もおとぎ話の実現の一部なんだろう。その点については本当に感謝。

「台風家族」遺産相続が巻き起こすブラックコメディ

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監督:市井昌秀

主演:草なぎ剛

 

『箱入り息子の恋』などの市井昌秀監督が、構想に12年をかけて自身のオリジナル脚本を映画化。両親の財産分与を行うため、久しぶりにきょうだいが集まって起こる騒動を、ブラックユーモアを交えて描く。一家の長男に草なぎ剛、次男に新井浩文、長女にMEGUMI、三男に中村倫也がふんし、彼らの両親を藤竜也榊原るみが演じるほか、尾野真千子若葉竜也らが共演した。

 

構想12年という市井昌秀監督のオリジナル作品。
新井浩文さんの逮捕により公開も危ぶまれていたが、なんとか無事公開となった。しかし3週間限定なので、観たい方はお早めに。

両親が銀行強盗を行い行方不明に。その後疎遠になっていた兄弟は、行方不明&時効成立をもって遺産相続のために集まることになり…

監督のここ最近の作品はジャニーズ主演の原作モノが多かったが、どうも監督の持ち味と食い合わせが悪いような印象を受けたが、本作はオリジナルという事もあり、やりたい事が発揮されつつ形になっている作品だと感じた。

遺産相続という事で、それぞれ下衆い本性をさらけ出す兄弟達。4兄弟を草なぎ剛新井浩文MEGUMI中村倫也が演じているが、特に草なぎ剛演じる長男は沼のように果てしなく下衆い。そこに闖入者が次々と現れて場はますます混乱していくが、次何気ないフラグがどんどん回収されていく。ドタバタ喜劇からヒューマンドラマへと物語は展開して行く。ラストの展開はある種のファンタジーではあるが、後味は台風が過ぎ去った時のように晴れやかだ。

基本家の中だけのワンシチュエーションブラックコメディだが、工夫は凝らしているので飽きさせない。監督特有の異常な長回しも、芸達者な出演陣のおかげで本作ではあまり違和感がない。ところどころ脚本に??と思うところがないわけではないが、ここ最近の作品と相性が合わなかったので、久々にやりたい事やれてるなという印象だった。

「存在のない子供たち」子供達が強く生き抜く様が胸を打つ

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監督:ナディーン・ラバキー

『キャラメル』などのナディーン・ラバキー監督が、中東の社会問題に切り込んだドラマ。主人公の少年が、さまざまな困難に向き合う姿を描く。ラバキー監督も出演するほか、ゼイン・アル・ラフィーア、ヨルダノス・シフェラウ、ボルワティフ・トレジャー・バンコレらが出演。第71回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したほか、第91回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。

 

元シリア難民である子役の男の子が主役ゼインを演じているのだが、栄養の行き届いていないような細さでまず胸が詰まる。
地獄のような家庭環境で育ち、ある出来事で思い立って家出をし、それからお世話になった人がまたエチオピアからの難民で…と、もうなんというか社会問題のオンパレード、数珠つなぎである。

そんな小さな男の子が、更に小さな赤ん坊をお世話していく様は微笑ましくも更に胸が詰まる。どんどん過酷な状況になってもなんとかしようともがく様は、ジャンルは違うが「火垂るの墓」を思い出してしまった。

また、映画の中で身分証のないものは虫ケラやゴミのように扱わられ、貧困にあえいで水と砂糖しか飲めない事もあると涙ながらに語られていた。
そこで想起したのは先日見た「プライベート・ウォー」で語られていたシリアの戦争下の中、子供たちは砂糖と水で飢えをしのいでいるという話だった。状況の違いはあれど、子供たちを同じような環境下に置いてしまっているのだ。
それのみならず親は子供たちに対してさらなる非人道的な扱いをするわけだが、ゼイン少年はそんな親を産んだ罪で訴える。
貧困から抜け出す事は容易ではないのに、なぜ無責任に子供を作るのか…
親を痛烈に批判していて痛快ではあるが、そこに至る過程を目の当たりにしているだけに、また更に胸が詰まる思いだった。

遠いレバノンで、まるで日本とは関係ないと思う人もいるかもしれないが、見ていて思い出すのは、「誰も知らない」や「万引き家族」などの社会から見捨てられたインビジブルピープル達の話である。
権利を持たない、見捨てられた人達はどこの国もいる事について考えさせられる。
それだけのリアリティを持った作品であった。

ラストの表情だけが、ただ救いだった。

 

お気に入り度:★★★★★

「プライベート・ウォー」戦場の現状を最前線で伝え続けた記者の生様

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監督:マシュー・ハイネマン

主演:ロザムンド・パイク

世界中の戦地を取材してきた戦場記者メリー・コルヴィンの半生を描いた伝記ドラマ。黒い眼帯を着けて戦地に赴くメリーを、『ゴーン・ガール』などのロザムンド・パイクが演じる。『フィフティ・シェイズ』シリーズなどのジェイミー・ドーナン、『ラブリーボーン』などのスタンリー・トゥッチらが共演。『カルテル・ランド』などのマシュー・ハイネマンが監督を務めた。

2019年9月13日公開。

 

戦場の現状を最前線で伝え続けた1人の女性ジャーナリスト、メリー・コルヴィンのお話。

メリー・コルヴィンと言う人は数々の戦地へ赴き、いくつもの賞を受賞する素晴らしい戦場ジャーナリストであるが、裏では深いPTSDに悩まされつつ強い想いに突き動かされ戦場へと行く。

映画では私生活は酒とタバコに溺れてボロボロなシーンと戦場のシーンが交互に描かれるが、そこに戦場があるからいくと言わんばかりに戦場に行く様は、なんでそこまで…と凡人の私は思ってしまうが、ジャーナリストとしての精神にただただ感服するばかりであった。

監督はドキュメンタリー作家のマシュー・ハイネマンで、本作が劇映画デビュー。「ラッカは静かに虐殺されている」でもシリアを撮っているが、本作でも数々の戦場が登場する中でも特に重要な地としてシリアが登場する。シリアの様子は劇中で非常に克明に描写されるのだが、その中で数々の戦地へ行ったメリーが「ここが一番ひどい」と言ったのが印象的だった。
PTSDになるほどショッキングな出来事が沢山あったのに…
そこでここはヤバいと言われながらも最前線でレポートし続ける彼女の姿を演じきったロザムンド・パイクの姿を是非見ていただきたい。

戦争になったら。
それは国でもなく官邸でもなく、民間人が一番犠牲になる。そして一人一人それぞれの戦争を体験していくことになる。
それを伝えるには大きくまとめられたニュースではなく、生の声を伝えるジャーナリストの力が必要だと。

なぜそこに行くのか、ではなくなぜ伝える必要があるのかについて深く考えたい映画だった。もっとニュースをきちんと理解しないといけないと反省した。