Kassyの試写会映画生活

主に試写会メインで新作の映画についての感想を残していきます。

「第三夫人と髪飾り」原始的な生活の中で描かれる生と死と女性

f:id:ksks1215:20191007090934j:plain

監督:アッシュ・メイフェア

主演:グエン・フォン・チャー・ミー

 

19世紀の北ベトナム山間部に、第三の夫人として嫁いできた少女を取り巻く人々のドラマ。アッシュ・メイフェア監督の曾祖母の実話を基に、男児を出産することを求められた社会に生きる女性たちの複雑な感情を、世界遺産の美しい景観とともに映し出す。『夏至』で共演したトラン・ヌー・イェン・ケーとグエン・ニュー・クインのほか、グエン・フオン・チャー・ミーらが出演。

 

2019年10月11日公開。

 

19世紀の北ベトナムの秘境。富豪の元に第三夫人として嫁ぐことになった14歳のメイ。
女性は男の子を産まなければ価値がない、嫁がなければ意味がないという時代。
ベトナム出身の女性監督が、様々なメタファーを用いながらアーティスティックにベトナムの昔の女性たちを官能的に描き出す。

原始的な生活の中で描かれる、生と死と女性。
あえて言葉少なに、言葉ではなく情景で心情や人物を描いているところがかなりセンスが良い作品である。
物語は監督の祖母や曽祖母の体験をもとに製作されているのだが、
まだまだ映画文化が浅く規制などもあるベトナム本国の公開時には、少女(主人公メイ)に対する性的表現やベト族の文化的差異など難癖をつけられてなんと公開4日で上映禁止になったとか。それでも上映出来ただけでも進歩、ということらしい。

映画の舞台になっているチャンアンは世界遺産にもなっている大変風光明媚な場所で、景色を見ているだけで癒されるような場所だが、そこで巻き起こるのは、一夫多妻の中の奥さんたちの血みどろの戦い・・・かと思いきやそうではなく、第一夫人や第二夫人にとっては娘ほど年の離れた第三夫人のメイを、二人は色々な腹づもりもきっとある中で、生活のことや性のことまで優しく教えてくれるのだ。「男の子を産まなければ」という強迫観念の中での闘争心はあるものの、厳しい生活の中で協力し合わなければ生きていけなかったという事らしいのだが、ある意味カルチャーショックを受けた。特に第二夫人の存在は、憧れの存在としての立ち位置も色濃い。

また、この時代に自由恋愛をしたくても出来なかった人々の顛末の悲しさには胸が詰まる。たった100年前には嫁がなければ人間としての価値が何もなかったのだ。でもこの監督はそんな時代でも、本当は色んな欲望があって、色んな形の愛があった事をきちんと物語に入れ込んでいる。
昔を描いているが、そこが今の時代に作る意味なのだろう。

ニューヨーク大学の映画学科で出会ったスパイク・リーがバックアップをし、トライ・アン・ユンが美術監修として参加しているこの作品。あまり触れてこなかったベトナムの新しい一面を知ることができる作品なのでぜひ才能をご堪能ください。

「ひとよ」父を殺した母を子ども達はどう迎えるのか

f:id:ksks1215:20191007091347j:plain

 

監督:白石和彌

主演:佐藤健

 

劇作家・桑原裕子が主宰する劇団KAKUTAの代表作を実写映画化。ある事件で運命を狂わされた家族が再会し、絆を取り戻そうとする。『孤狼の血』などの白石和彌がメガホンを取り、『凶悪』などで白石監督と組んできた高橋泉が脚本を担当。3兄妹に『るろうに剣心』シリーズなどの佐藤健NHK大河ドラマ「西郷(せご)どん」などの鈴木亮平、『勝手にふるえてろ』などの松岡茉優、彼らの母親に『いつか読書する日』などの田中裕子がふんする。

 

2019年11月8日公開。

 

白石監督の前作凪待ちとかなり雰囲気は似ているが、こちらは予告で抱いていた印象よりも笑える部分もあり、かなり重たい作品だと思って行くと少し印象の違う作品だと感じるかもしれない。
田中裕子さん演じる「母」は一見飄々として日々を過ごすので、意外と淡々と日々が進んでいくのが興味深い。

三兄弟は母が刑務所に行ったあと、それぞれ受けてきた境遇もあり、母が帰ってきたことによる反応は人それぞれなのだが、タクシー会社を引き継いでいた音尾琢真演じる従兄弟や、タクシー会社の従業員の方が母に対して友好的な疑似家族となり、肉親の三兄弟の方が戸惑ってしまうという構造は面白い。

映画の中心には「母」がいるが、色々な家族の問題を重ね合わせながら「親」と「子」の因果について考えさせられる。
親がやってきたことは、子どもの人生に対しても引き継がれてしまう業の深さ。子どもがいかにそこからもがいて生きていくのかについて考えさせられる。

エピソードの重ね方、人物を言葉ではなくシーンで表現する上手さはかなり巧みである。脚本がスマートすぎる感もあるが。
ただ佐々木蔵之介さん関連のエピソードについてはやや唐突な印象も受けるが、最終的には佐々木蔵之介さんの力技でなんとかなっていた。
終盤はドラマティックな展開であるが、佐藤健くんがもっと見苦しくなっても良かったと思うくらい爆発力が少し弱かったので、そこは少し肩透かしではあった。

それにしてもこの映画のキモはやはり田中裕子さんの演技力と存在感。
初っ端から田中裕子さんのお芝居の凄みに惹きつけられる。
あえて飄々とし、時には子供を見つめ、あたたかく対応し、寂しい姿や、背中を見せる姿も。ラストに見せる姿にグッとくる。
他の仕事をセーブして白髪で挑んだという意気込みが映画にとても出ていた。

三兄弟の距離感も良い塩梅だった。
白石監督がティーチインで一番好きだと言っていた、三兄弟の「でらべっぴん」のシーンが、兄弟の空気感が伝わってきて私も一番好きです。

「蜜蜂と遠雷」言葉の音楽を再現する気概と挑戦

f:id:ksks1215:20191007091755j:plain

 

監督:石川慶

主演:松岡茉優

 

直木賞本屋大賞をダブル受賞した恩田陸の小説を実写映画化。若手ピアニストの登竜門とされる国際ピアノコンクールを舞台に、4人のピアニストたちの葛藤と成長を描く。キャストには『勝手にふるえてろ』などの松岡茉優、『娼年』などの松坂桃李、『レディ・プレイヤー1』などの森崎ウィン、オーディションで抜てきされた鈴鹿央士らが集結。『愚行録』などの石川慶がメガホンを取った。

 

2019年10月4日公開。

 

大好きな原作の映画化という事でどのように映像化をするのか、すごく楽しみにしていた。
あの文量を全て映画化するのは不可能だと思うので、何をテーマとして描いていたかというのが気になるところだったのだが、その点においてこの映画はある一定の水準でピアノコンクールの熱さ、ピアノや音楽の素晴らしさなどは描けていると思う。

しかし、私がこの原作で一番感じていた瑞々しい表現による音楽の祝福、多幸感は残念ながらあまり感じられなかった。
私はこの作品はあくまでも風間塵くんが真の主役だと思っている。だからこの原作は幸せに満ち溢れた読後感になる。コンテスタント同士の共鳴、化学反応、天才が天才に触発される過程が面白いのだ。

この映画で始めて作品に触れた人は、何が蜜蜂と遠雷なのかわかっただろうか?
栄伝亜夜を主役に据えるのはしょうがないと思うのだが、やはりどこか本筋がブレてしまった気がする。

しかしながら、春と修羅を始め実際に見て聴ける事はすごい。それぞれのカデンツァを再現した事、音楽の表現を映像化という難しいことにチャレンジした事は本当に素晴らしい事だと思う。

それぞれの情熱がほとばしる演奏がフィニッシュした時には、映画だということを忘れて拍手してしまいたくなるほどだった。
月の光の連弾のシーンは一番音楽の幸せに満ち溢れたシーンになっており、特に一番のお気に入りだ。

「アド・アストラ」自分と向き合う内向的なSF映画

f:id:ksks1215:20191007092300j:plain

 

監督:ジェームズ・グレイ

主演:ブラッド・ピット

 

ブラッド・ピットトミー・リー・ジョーンズが共演したスペースアドベンチャー。地球外知的生命体を探求する父親に憧れて宇宙飛行士になった息子が、父の謎を探る。『エヴァの告白』などのジェームズ・グレイが監督を務め、『ラビング 愛という名前のふたり』などのルース・ネッガをはじめ、リヴ・タイラードナルド・サザーランドらが出演。

 

く…くらい…暗すぎる…

画面に映るのはほぼブラッド・ピット
ブラッド・ピットのモノローグもかなりの割合を占める。
人と深く関わる事が出来ない主人公が宇宙で味わう孤独。
宇宙の深淵に行く事は、心の内部へと向かう旅なのか。心の闇は深く父に影響し、父を探す事は自分の過去と向き合う事。
とは言え壮大な自分探しの旅すぎる。

ビジュアルはとても好きだ…
画面構成や演出も色々なオマージュを感じつつ良い…
しかしさすがに全体的に暗すぎて戸惑うレベルだった。
私は寝なかったが、睡眠はよくとってたから見た方が良いと思った。

「ジョーカー」必見!社会の闇が産んだ新たなジョーカー像

f:id:ksks1215:20191007092528j:plain

 

監督:トッド・フィリップス

主演:ホアキン・フェニックス

 

『ザ・マスター』『ビューティフル・デイ』などのホアキン・フェニックスが、DCコミックスの悪役ジョーカーを演じたドラマ。大道芸人だった男が、さまざまな要因から巨悪に変貌する。『ハングオーバー』シリーズなどのトッド・フィリップスがメガホンを取り、オスカー俳優ロバート・デ・ニーロらが共演。『ザ・ファイター』などのスコット・シルヴァーがフィリップス監督と共に脚本を担当した。

 

2019年10月4日公開。

 

名優達が素晴らしい演技で命を吹き込んできたジョーカーに、また一つ傑作が生まれた。

不穏で陰鬱とした空気が映画にずっと渦巻きながら、計算され尽くしたかのような構図の数々や演出がビシビシとはまる。
その中心にいるホアキン・フェニックスの痩せこけた身体から放たれる圧倒的な底知れぬ演技が素晴らしかった。

ジョーカーが産まれる背景に描かれる、貧困、児童虐待、格差、病気、差別。
地獄のような社会の中で、ジョーカーは人が産み出した怪物なのだと思わされる。
群集心理の恐ろしさがそれを増長させる。
ラストの群集とのシーンは一層の恐怖を煽るようなスーパーヴィランの誕生シーンだった。

壮大なバックトラックが劇的な展開を彩るが、そんな中でナット・キング・コールのスマイルとフランク・シナトラのThat’s Lifeは映画に違った色をつけていて印象的だった。

笑いを求め続け…妄想の中だけでも幸せでいられたなら…でもそれはまやかしの幸せだったのだろうか。
一人の哀しい男の悲しい末路。
そしてこれからに想いを馳せるのであった。

絶望的だからこそ、ある意味ヒーローが待ち遠しくなる映画かもしれない。

「ヘルボーイ」 ヘルボーイのキャラは良いけど…

f:id:ksks1215:20191007092848j:plain

 

監督:ニール・マーシャル

主演:デヴィッド・ハーバー

 

ドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」などのニール・マーシャルを監督に迎え、マイク・ミニョーラのアメコミシリーズをスタッフやキャストを一新して映画化。異形のヒーローが、世界滅亡をたくらむ悪と戦う。本作では原作者のマイクが監修を担当し、ドラマシリーズ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」などのデヴィッド・ハーバーが主演を務める。ミラ・ジョヴォヴィッチが悪役として登場する。

 

2019年9月27日公開。

 

多分有名なお話だから起きる摩擦なんだろうが、本作だけを見る人には説明が不足しているように感じる。説明は一応映画内でしているのだが、人に理解させようという気力を感じない。
キャラとキャラがどういう関係で、どういう背景かも一応言葉だけで説明しているが全く頭に入ってこないし、当たり前のように「こいつ知ってるでしょ?」みたいな感じで人名だけしれっと出てくるので見ていると若干ストレスを感じる。

映像はチープだし、ストーリーもお粗末だし、やけに血や肉がグロいし、ハロウィンか?という感じで敵は気持ち悪いし、ヘルボーイのキャラクターは良いのになぁ…
でもこのB級でグロい感じは好きな人は堪らんだろうな。

ラストの感じはすごい楽しそうなので、このテイストでやったらもっと面白そうだけども。コケたそうなので、無理か。

「人間失格 太宰治と3人の女たち」蜷川実花流太宰恋愛エンタメ

f:id:ksks1215:20191007093935j:plain

 

監督:蜷川実花

主演:小栗旬

 

走れメロス」「斜陽」などで知られる作家・太宰治の「人間失格」誕生に迫るドラマ。写真家で『ヘルタースケルター』などの監督を務めた蜷川実花がメガホンを取り、酒と女に溺れながらも圧倒的な魅力を持つ男の生涯と、太宰をめぐる正妻と2人の愛人との恋模様を描く。太宰には小栗旬がふんし、役作りのため大幅な減量を行った。太宰の正妻を宮沢りえ、愛人を沢尻エリカ二階堂ふみが演じる。

 

太宰治恋愛模様を中心に描いており、自伝的小説である人間失格を冠しているものの、人間失格ではなく人間失格を書くまでの太宰治のお話である。

蜷川実花監督らしい色彩とアート感覚に溢れ、1940年代の景色を艶やかに描き出している。
特に太田静子のパートが一番イキイキと演出しているような気がする。小説家でいう筆が走るような、想いがかなり込められているのではないかというほど、沢尻エリカは悲壮感なく美しく撮られている。
一方で、小栗旬もまた美しく撮られており、どうしようもない男ではあるが魅力のある男を色気たっぷりに、またひどく哀しい男でもある太宰治を滑稽なほど色んな表情で演じている。喀血のシーンは見ているこちらが苦しくなってくる。

ただ全体的にトゥーマッチな為、メリハリがなく見ているとだんだん疲れてくる作品だ。特に音楽が全くあっていなくて、うるさく感じるほど。エンターテインメントにはなっているが、文学の香りが画面からあまり滲み出てこないのが残念だ。
あまり語りすぎず滲み出てくるような侘び寂びが欲しい。